
賃貸管理会社のオーナー向けDXとは?
夢見巳社長昇り辰社長!最近、管理戸数がどんどん増えているそうですね!
管理戸数を伸ばしている管理会社の社長から、成功の秘訣を聞いた夢見巳社長。
その答えは、アパートや賃貸マンションの所有者を調べてDMを送る管理受託営業と、オーナー向けのLPを作り、Web広告から相談を獲得する方法でした。
夢見巳社長は、すぐに目を輝かせます。



よし!うちでもやるぞ!
しかし、いざな丑は冷静にこう伝えました。



社長、それらは大事な施策です。ただ、どちらかというとDXではなく、営業やマーケティングの話ですね
たしかに、どちらも管理戸数を増やすための重要な取り組みです。
では、賃貸管理会社の営業・フロント部門が取り組むべき、本当の「オーナー向けDX」とは何なのでしょうか。
オーナー向けDXで多い相談は「管理受託営業」と「Webマーケティング」
賃貸管理会社の営業・フロント部門から、オーナー向けDXについて相談を受けると、よく挙がるのが次の二つです。
管理受託営業については、以前から行われてきた方法があります。
アパートや賃貸マンションの所有者情報を調べ、管理会社の変更を提案するDMを送る方法です。
積極的な会社では、電話営業や訪問営業まで行うこともあります。決して新しい営業手法ではありませんが、現在でも取り組んでいる管理会社はあります。
一方、近年増えているのが、管理受託の相談をWebから獲得する方法です。
オーナーに響くLPを作成し、検索広告やSNS広告などを使って、次のような悩みを持つオーナーから相談を集めます。


- 空室がなかなか埋まらない
- 管理会社から報告がない・遅い・催促しないとこない
- 担当者の対応が遅い
- 修繕費用が適正なのか分からない
- 管理会社の変更を検討している
いざな丑の独自調査や支援現場でも、管理受託の反響獲得を目的としたWebマーケティングに取り組む管理会社は増えています。
管理受託営業と管理受託獲得のWEBマーケティングは、DXというよりマーケティング戦略
登記情報を活用した営業や、Web広告を使った反響獲得には、デジタル技術が使われています。
しかし、中心となるのはDXというよりも、営業戦略やマーケティング戦略です。
デジタルを使っているから、すべてがDXになるわけではありません。
いざな丑は、管理受託営業とWebマーケティングの双方を支援できる体制を持っています。
ただし、誰にでも積極的におすすめしているわけではありません。



その理由は、見た目以上に難易度とコストが高いからです。
例えば、所有者へDMを送る場合、次のような費用や作業が発生します。
・対象となる物件の抽出
・所有者情報の取得
・自社管理物件や既存顧客との重複確認
・営業リストの整備
・DMの制作、印刷、発送
・反響があった後の営業対応
・継続的な追客



Webマーケティングの場合も、LPと広告を用意すれば自動的に管理受託が増えるわけではありません。
・オーナーに選ばれる理由の整理
・LPの制作
・広告費
・問い合わせ対応
・営業担当者の配置
・反響後の提案資料
・受託に至らなかった顧客への継続フォロー
こうした体制まで整えなければ、問い合わせを獲得しても、管理受託にはつながりません。
一般的に提案されるオーナー向けDX
では、一般的には、オーナー向けDXとしてどのような取り組みが提案されているのでしょうか。
生成AIに整理させると、主に次のような施策が挙げられます。
- 収支報告書、送金明細のオンライン化
- オーナー専用アプリ、マイページの導入
- 入居率、空室状況、募集進捗の見える化
- 修繕履歴、工事履歴の一元管理
- チャットを使った連絡
- 修繕見積もりなどのオンライン承認
- 電子契約
- オーナー満足度アンケート
- 賃料や空室原因のデータ分析
- 将来の修繕時期や費用の予測
- オーナーとの対応履歴を管理するCRM
- 一定期間連絡のないオーナーへの自動フォロー
オーナー向けレポートの自動化は重要



オーナー向けDXとして、最も分かりやすく、効果を出しやすいのは、オーナー向けレポートの自動化や高度化です。
例えば、これまで手作業で作成していた収支報告書や送金明細を、基幹システムのデータから自動で作成できれば、事務作業を大きく減らせます。
印刷、封入、郵送を減らし、Web上で確認できるようにすれば、ペーパーレス化にもつながります。
ただし、この領域の実務は、どちらかというと事務部門やバックオフィス部門が中心です。
営業・フロント部門の視点でオーナー向けDXを考える場合は、少し違う角度から考える必要があります。



オーナー向けレポートの自動化については、賃貸管理会社にとって重要なDXの取り組みなので、別途記事化予定です。
オーナーアプリを導入すれば解決するのか
一般的なオーナー向けDXの提案では、オーナー専用アプリやマイページが上位に挙がります。
オーナーがスマートフォンから、収支報告書、空室状況、修繕履歴などをいつでも確認できる。
聞こえは非常によく、実際に便利な仕組みです。
しかし、アプリを導入しただけでは、利用は広がりません。
オーナーに登録してもらうためには、次のような対応が必要です。
- アプリ導入のお知らせ
- 登録方法の説明
- 未登録者への再案内
- 電話による操作支援
- スマートフォン操作が苦手なオーナーへのフォロー
- 紙とデジタルを併用する期間の二重運用
特に、デジタル操作に慣れていないオーナーが多い管理会社では、登録してもらうまでの障壁と、登録後のフォローコストが想像以上に大きくなることがあります。
夢見巳社長が言います。



アプリを入れれば、オーナーはみんな使ってくれると思っていたぞ
整え鼠は、冷静に答えます。



導入費用だけでなく、使ってもらうまでの運用も設計する必要があります
・オーナーへの案内費用(DM、SMS、Eメール)
・マニュアルの作成
・問い合わせ対応
アプリは有効な選択肢です。
しかし、アプリを入れること自体がDXの目的になってはいけません。
営業・フロント部門に「これだけやればよいDX」はない
約5年間、複数の賃貸管理会社のDXを支援してきたいざな丑は、こう考えています。



賃貸管理会社の営業・フロント部門におけるオーナー向けDXに、これを一つ導入すれば明確な効果が出る、という万能な仕組みはありません
視点を変えてみると、以下2つの観点から考察することで、答えが見えてきました。




営業・フロント部門のオーナー向け業務は、一つの作業だけで構成されているわけではありません。
・退去の受付からの募集開始
・反響の確認
・空室対策
・修繕の提案
・見積もりの承認
・定期報告
・問い合わせ対応
・不満の把握
・将来の資産活用提案
小さな業務が連続し、それぞれに担当者の判断や、オーナーへの説明が必要です。
そのため、一つの機能だけで、すべてを改善することは困難です。
管理戸数を増やすには「減らさないこと」も重要
賃貸管理会社における営業・フロント部門の使命は、管理戸数を増やすことです。
ただし、管理戸数を増やす方法は、新しい管理物件を獲得することだけではありません。
既存の管理物件が他社へ移ることを防ぐことも、非常に重要です。
例えば、1年間で100戸の管理物件を新たに受託したとしても、同じ期間に90戸が解約になれば、純増は10戸です。
100戸獲得-90戸解約=純増10戸
一方、新規受託が20戸でも、解約が0戸であれば、純増は20戸になります。
20戸獲得-0戸解約=純増20戸
新規獲得数だけを見ると、100戸を獲得した会社の方が営業力が高いように見えます。
しかし、最終的に残った管理戸数は、解約を防いだ会社の方が多くなります。
管理戸数を増やすためには、
「新しく増やすこと」
と同時に、
「今ある管理を減らさないこと」
が必要です。
オーナーは大きな失敗だけで離れるわけではない



管理会社の変更というと、大きなトラブルや重大なクレームが原因だと思われがちです。
しかし、実際には、小さな不満の積み重ねによって信頼が失われることもあります。
例えば、次のような状況です。
- 定期報告が予定どおり届かない
- 問い合わせへの回答が遅い
- 退去の連絡を受けた後、募集開始が遅れる
- 空室が続いているのに、管理会社から提案がない
- 修繕見積もりを送った後、状況が止まっている
- 担当者が変わるたびに、同じ説明を求められる
- オーナーから聞かれて、初めて状況を調べる
- 電話やメールの履歴が、担当者個人にしか残っていない
一つひとつは、すぐに解約につながるほど大きな問題ではないかもしれません。
しかし、繰り返されると、オーナーは次のように感じます。
「こちらから聞かないと動いてくれない」
「物件を任せていて大丈夫だろうか」
「別の管理会社の方が、しっかり対応してくれるのではないか」
本当のオーナー向けDXとは、こうした不満が大きくなる前に、管理会社側が気づける仕組みを作ることです。


まとめ
オーナー向けDXを考える際、「管理戸数を増やす」という視点に偏りすぎると、管理受託営業やWeb広告などの新規獲得施策に目が向きがちです。
もちろん、管理受託営業や管理受託Webマーケティングは、管理戸数を増やすための重要な取り組みです。しかし、これらは主に、新しいオーナーとの接点をつくるための営業・マーケティング施策です。
仮に施策がうまくいき、オーナーが管理会社を切り替えてくれたとしても、その後の対応が以前と変わらなければ、



「思っていたほど変わらなかった」
「前の管理会社の方が良かったかもしれない」
と思われてしまう可能性があります。
新規受託を増やしても、同じように管理解約が増えれば、管理戸数の純増にはつながりません。


報告漏れを減らす。対応を早くする。空室や修繕の問題を早期に把握する。担当者が変わっても、過去の経緯を引き継げるようにする。そして、オーナーから催促される前に先回りして動く。
こうした日々の管理品質を高め、既存オーナーから選ばれ続ける仕組みをつくることこそ、賃貸管理会社の営業・フロント部門におけるオーナー向けDXです。
夢見巳社長は、新規獲得の計画書を見ながら言いました。



新しいオーナーを増やすことばかり考えていたが、今のオーナーに選ばれ続ける仕組みも必要なのだな
いざな丑がうなずきます。



はい。オーナー向けDXは、何かを売り込むためだけの仕組みではありません。大切なオーナーを失わないために、現場が早く気づき、先回りして動ける仕組みをつくる、賃貸管理会社の営業・フロント部門のDXなのです


記事の企画・監修
DXコンサルタント 蓼沼 康之(たでぬま やすゆき)
株式会社いざなう 代表取締役社長
<経歴>
不動産デベロッパーにて、DX推進部門の立ち上げと業務改革に従事。その後、不動産テック企業の経営陣として、大手不動産会社や地方銀行を担当し、不動産情報や不動産ビッグデータの有効活用支援、DX推進コンサルティングを手がける。
営業DXの観点から、見積もり、発注、不動産データの納品までを自動化するDXサービスを企画・ローンチするなど、事業開発にも携わる。
独立後は、不動産・住宅業界に強いDXコンサルタントとして、DX戦略の策定、業務改革、事業開発を支援。独立初年度から現在に至るまで、営業・広告宣伝を一切行わず、紹介と口コミのみで実績を積み重ねている。
賃貸管理会社への支援実績も豊富で、管理戸数4万戸を超える大手管理会社に対し、DX構想の策定から実行計画の立案・推進支援まで一貫して担当している。








