夢見巳社長といざな丑の「DX、何から始める?」|全7回・第2回
中期経営計画には「成長と収益性の向上」、DXの活動計画には「AI研修とツール導入」。どちらも大切なのに、その間のつながりを説明できない。そんな状態になっていないでしょうか。
今回は、会社の目指す成果と現場の改善を、KGI・KPIでつなぐ考え方を扱います。
※株式会社まちみらい不動産と登場人物は架空です。記事中の指標は考え方を説明する例であり、実在企業の計画・実績や、まちみらい不動産で確定した目標ではありません。
「AIを使った」は、何につながる?
前回の構想会議で、夢見巳社長は「管理する物件が増えても、丁寧な対応を続けられる会社にしたい」と話しました。今回は、その目指す姿と中期経営計画をつなぐ相談です。
夢見巳社長「対応品質を保ちながら、収益性も高めたい。そのためのDXを、中期計画にも入れよう」
整え鼠は、DXの取り組み状況を確認する項目を考え始めました。



「では、AIの利用回数や研修の参加人数を目標にすればよいでしょうか?」



「利用が広がっているかを知るには役立ちますね。その先で、どんな仕事が変わり、経営目標に近づくのかも、一緒に考えましょう」
研修の参加人数やツールの利用状況は、導入初期の進み具合を知る手掛かりになります。
ただ、それだけでは、顧客への対応が良くなったのか、仕事の負担が減ったのか、収益性にどう関係するのかまでは分かりません。
経営が期待する成果と、DX担当者が報告する活動。その間にある「仕事の変化」を言葉にすることが、今回の出発点です。
中期経営計画とDX戦略の間に、仕事の話を置く
中期経営計画で「管理事業の収益性を高める」と掲げても、それだけで現場の取り組みは決まりません。
新しい顧客を増やすのか。今の契約を継続してもらうのか。重複作業を減らすのか。顧客に提供するサービスの価値を高めるのか。
どこに力を入れるかによって、必要な業務の変化も、DX施策も変わります。
まちみらい不動産では、第1回で話題になった「情報を探す・対応を引き継ぐ」仕事を、考える材料にしました。
修繕の問い合わせを受けた後、別の担当者が同じ情報を探し直したり、受付担当者に聞き直したりしていたらどうでしょうか。
その重複確認を減らせれば、対応に使う時間の配分を見直せる可能性があります。ただし、空いた時間をどう使うか、他の負担が増えていないかも確かめる必要があります。



「情報を共有する仕組みを整えることが、対応の引き継ぎや、社員の時間の使い方につながる。その先に経営目標があるんですね」



「はい。そのつながりは、最初は仮説です。仕事が変わったか、期待した成果に近づいたかを見ながら、確かめていきましょう」
DX戦略を中期経営計画に接続するとは、施策名を計画書に追記するだけでなく、経営目標に向けて、どんな仕事をどう変える必要があるかを説明できるようにすることです。
KGI・KPI・KFSを「成果・成功条件・途中の変化」で考える
ここで、よく登場する言葉を整理します。
- KGI(重要目標達成指標):目指す成果を達成したか、判断するための指標。
- KPI(重要業績評価指標):その成果に向けた業務や取り組みの、重要な変化を確認する指標。
- KFS(重要成功要因):成果につなげるために、特に重要だと考える条件や要因。CSFと呼ばれることもあります。
成果を決め、その達成に重要な条件を考え、途中の変化を確かめる指標につなぐ、という関係です。デジタル庁の実践ガイドブックでも、KGI・重要成功要因(CSF)・KPIの関係が説明されています。[3]
今回の話を、一つの例に置き換えると次のようになります。
| 位置付け | 考え方の例 |
|---|---|
| 経営の方針 | 対応品質を保ちながら、管理事業の収益性を高める |
| KGIの候補 | 管理事業の営業利益率など、目指す成果を判断する指標 |
| KFSの仮説 | 必要な情報が引き継がれ、重複確認を減らせること |
| DX施策の方向性 | 顧客・物件情報と対応履歴の共有の仕方を見直す |
| KPIの候補 | 引き継ぎ後の再確認が必要になった割合など、仕事の変化を確認する指標 |
※一つのつながりを示す例です。営業利益率には、価格、契約構成、人件費など複数の要因が関係します。再確認が減ったことだけで、利益率への貢献を断定することはできません。


「早くなった」とき、対応の質も確かめる
指標があると、何を目指すかが伝わりやすくなります。一方で、一つの数値だけを追うと、意図しない行動につながることもあります。
例えば、最初の返信までの時間を短くすることに意識が向き、必要な確認が不足して、後から何度も聞き直す状態になったらどうでしょうか。
あるいは、記録する件数を増やしても、次の担当者が使える情報が残っていなければ、引き継ぎの負担は減らないかもしれません。



「数字が良くなっていても、目指していた『丁寧な対応』から離れていたら困るね」
時間や件数を見るときには、対応漏れや誤案内、再問い合わせの状況など、品質を確かめる視点も合わせて考えます。
どの指標を組み合わせるかは、変えたい業務と、そこで起こりうるリスクによって異なります。
「数値を良くするために、何か大切なことが犠牲にならないか」も、経営と現場で共有しておきたい論点です。
目標値は、現在地と測り方をそろえてから
「良くなったか」を確かめるには、比較するための現在地が必要です。
同じ「対応時間」でも、受付から最初の返信までなのか、解決までなのかで意味は変わります。「引き継ぎ」も、どの仕事のどの場面を指すかがそろっていなければ、部署間で数字を比較することは難しくなります。
指標の名前に加えて、何を対象に、どう確かめるのかを共有します。そのうえで、目標とする水準や期限を考えていきます。
状態の変化を確認する定性的な目標でも、「何を根拠に進んだと判断するか」をそろえることは大切です。



「まだ測れていないことがあっても、まずは現状を知るところからです。数字を埋めるために、社員の記録作業だけが増えないようにもしたいですね」
中期計画で目指す成果と、年度ごとの取り組み、日々確認できる変化をつないでいく。途中の指標が改善しても経営の成果に結び付かなければ、施策の進め方や、最初に置いた仮説を見直します。
また、実行に必要な予算、人手、教育や運用の時間も、計画の中に位置付ける必要があります。目標と、それを担う人の条件は、合わせて考えるものです。
IPA「DX推進指標」で、経営と現場のつながりを振り返る
IPAの「DX推進指標」は、関係者が自社の現状や課題について認識を共有し、次の行動を考える材料になります。[1]
今回のテーマでは、2026年改訂後の「望ましい方向性」に基づく35設問のうち、次の2つが特に関係します。以下は内容の要約です。[2]
| 関連設問 | 今回のテーマとのつながり |
|---|---|
| 設問4 | 経営者が主体的に関わり、経営ビジョンを実現する道筋としてDX戦略を構築しているか |
| 設問30 | DX戦略や施策の取り組みに、定量・定性のKGI・KPIを設定し、評価しているか |
この対応付けは、本連載の編集上の整理です。IPAが、本記事の例示した指標や進め方を指定しているという意味ではありません。
自社では、次の点を振り返ってみてください。
- DXの活動報告から、どの経営目標に貢献したいのかが伝わるでしょうか。
- ツールの利用状況に加えて、仕事の変化や対応品質も確認できているでしょうか。
- 成果とのつながりが見えなかったときに、指標や施策を見直す場があるでしょうか。
次回は「目標を、誰が動かすか」
夢見巳社長と整え鼠は、中期経営計画とDX施策の間にある「仕事の変化」を考え始めました。
ここで、整え鼠に新しい疑問が生まれます。



「この取り組みを、各部署の皆さんとどう進めればいいでしょう。通常業務との兼務ですし、私だけでは決められないこともあります」
次回は、「委員会はできた。でも進まない――兼務で回すDX推進の役割分担」です。目標を掲げた後に必要になる、経営・事務局・現場の役割と権限を考えます。
全7回のシリーズ構成を見る
- DXグランドデザイン
- 中期経営計画とKGI・KPI(この記事)
- 兼務メンバーで進めるDX推進委員会
- 構想につながる業務ヒアリング
- 複数事業のDX共通化と個別対応
- 部門横断施策の優先順位
- 不動産管理DXのROIと定性効果
第3回以降は順次公開予定です。
経営計画とDXのつなぎ方に、迷っている方へ
「DXの活動は増えたけれど、経営への貢献を説明しづらい」
「中期計画にDXを盛り込みたいが、何を目標にすべきか決まらない」
適切な指標は、事業の強みや課題、変えたい業務によって異なります。自社の状況に合わせて、経営目標・業務の変化・施策・評価の関係を整理することが大切です。
株式会社いざなうでは、経営課題と現場業務の整理から、DX構想や推進方針の策定を支援しています。今ある経営計画や改善案を、どうつなぐかという段階からご相談いただけます。
参考情報
[1] IPA「DX推進指標のご案内」
[2] IPA「参考:提出不可・社内共有用 DX推進指標設問一覧」(2026年10月26日確認。設問番号は同一覧の「望ましい方向性」に基づく番号)
[3] デジタル庁「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン実践ガイドブック」(用語・目標設定の関係を参照。行政向け資料を参考に、本記事では企業の業務に置き換えて説明)
本記事の例示・図解は編集部による整理です。個別企業の指標・目標値や、具体的な評価方法を示す完成テンプレートではありません。













