

※登場する会社・人物・会話は架空です。特定企業の業務や導入事例を再現したものではありません。
「この書類、もうスキャンしてあるはずなのに、どこだっけ?」。紙の保管棚を減らしたくて電子化を始めたのに、今度はパソコンのフォルダを開いたり閉じたり。そんな経験はないでしょうか。
株式会社がんばる商事で事務を担当するうつし野さんも、スキャンしたPDFを探しています。ファイル名は scan001.pdf や 202610.pdf のようなものばかり。似た名前のフォルダも複数あります。電子化は進んだのに、書類を探す仕事はあまり変わっていません。
そこで、つながる商事の改善担当・つなぐさんが尋ねます。「スキャンする前に、何を、どんな名前で、どこへ、誰が保存するか決めていますか?」
スキャンは「紙をデータに変える作業」。仕事の改善はその先にある
スキャンすれば、紙の書類をPDFなどの電子ファイルにできます。しかし、ファイルが増えただけでは、必要な情報をすぐ取り出せるとは限りません。たとえば、次のようなことが起こりがちです。
- 書類の中身が分からないファイル名のまま保存される。
- 同じ書類が部署ごとのフォルダに複数残る。
- 「最新版」がどれか分からず確認の電話が発生する。
- 保存場所や閲覧権限が担当者ごとに違う。
原因は、スキャナーの性能ではなく、電子化した後にどう探し、どう使うかというルールが決まっていないことかもしれません。
電子化を始める前に決めたい4つのルール
1. 分類:どんな目的の書類か
最初に、書類を使う場面を考えます。請求書、契約関連、申請、社内稟議など、「探す人が何を手掛かりにするか」が分類の基準です。保存担当の都合だけで分類すると、別の部署の人が探せなくなることがあります。
2. 命名:ファイル名を見て中身が分かるか
日付、書類種別、対象、版など、必要最小限の項目を決めます。例えば社内向けの一般的な命名イメージは 2026-10_請求書_取引先コード_01.pdf。ここで取引先名ではなく管理用の識別子を使うかどうかは、社内の情報管理ルールに従います。
大事なのは、名前を長くすることより、同じ種類の書類を誰が保存しても同じ発想で名付けられることです。
3. 保存先:どこを正本にするか
同じファイルが個人のパソコン、共有ドライブ、メール添付に散らばると、どれが正しいか分かりません。正式な保存先を決め、コピーを配るより必要な権限で参照できる運用を考えます。
Google Driveのような共有の保管場所を使う場合も、フォルダの分け方、閲覧・編集権限、外部共有の範囲は別途設計が必要です。クラウドへ置けば自動的に情報が整理されるわけではありません。
4. 更新担当:誰が直し、古いものをどう扱うか
PDFを作って終わりではありません。訂正が発生したときの更新担当、最新版の表示、旧版の保管・削除ルールも決めます。法令や社内規定に基づく保存期間がある書類は、安易に削除しないことが大切です。

小さく試すなら、書類を1種類に絞る
最初から全社の書類を整理する必要はありません。たとえば毎月使う社内申請書を1種類選び、今どこから探しているか、何が分かれば見つかるか、誰が更新するかを確かめます。その上で、試しに数件を新ルールで保存し、保存した本人以外の人にも探してもらう。ここで迷いがあれば、スキャン作業を増やす前にルールを直せます。
Googleスプレッドシートで書類の一覧を作り、保存先へのリンクと版・更新担当を管理する方法もあります。ただし、台帳を増やすこと自体が目的にならないよう、実務の量と頻度に合わせましょう。
目指すのは「紙がない」ではなく「探すのに困らない」状態
うつし野さんが必要としているのは、PDFの枚数ではありません。欲しい書類を迷わず見つけ、最新版を確かめ、次の作業へ進めることです。
スキャン、OCR、AI検索といった技術は役に立つ選択肢です。ただし、分類や保存ルールが曖昧なままでは、便利な道具の効果も十分に生かせません。まずは「何を・どう名付け・どこへ・誰が」を決める。その小さな設計が、電子化を仕事の改善に変える出発点になります。
自社の書類整理、どこから始める?
同じ「電子化」でも、書類の種類、部署間の使い方、保存義務、権限によって適切な運用は変わります。しごと改善商会では、Google Workspaceやスプレッドシート、必要に応じた自動化と組み合わせて、無理なく続く仕事の仕組みを考えています。まずは、探すのに困る書類を1種類、挙げてみませんか。
記事監修 株式会社いざなう 代表取締役 蓼沼康之
G Suite時代からGoogleのツールを活用した情報管理と業務改善に取り組み、顧客情報・物件情報の管理、業務の入力・出力の最適化、社内のタスク・スケジュール管理などを実践。現在は生成AIとの組み合わせも含めて業務の仕組みづくりを支援している。
※ 本稿は一般的な業務改善の考え方を紹介する記事です。法定保存期間や契約上の取り扱いについては、各書類に適用される規定を個別に確認してください。





