電話を取った直後にメールが届き、ホームページの問い合わせにも返信する。賃貸管理の現場では、複数の窓口を行き来しながら対応する場面があります。
一人ひとりは動いているのに、「それ、もう対応してくれましたよね?」「自分はまだですが……」という行き違いが起きてしまう。こんなとき、見直したいのは担当者の注意力だけではありません。
問い合わせの対応漏れを防ぐには、ツール導入の前に、問い合わせの分類と受付・引き継ぎのルールをそろえることが大切です。


「対応してくれたと思っていた」が起こるまで
株式会社まちみらい不動産の事務所。こつ酉は次々とかかる電話に応じ、うっかり戌はホームページから届いた問い合わせを確認しています。
うっかり戌「あれ? こつ酉さん、この問い合わせ、対応してくれましたよね?」



「してないよ。うっかり戌さんが対応中だと思ってた……」
二人とも、別の問い合わせには一生懸命対応していました。ところが、この件を誰が引き受けたのか、確認できる記録がありません。
電話メモは机の上。ホームページの通知はメールの受信箱。途中で交わした「確認しておきますね」という言葉も、何をどこまで引き受けたのかが曖昧でした。



「『誰かが見た』ことと、『誰かが対応を引き受けた』ことは違います。まず、その境目をそろえましょう」
※漫画と会話は、架空の会社を舞台にしたフィクションです。
問い合わせが散らばるのは、入口が多いからだけではない
電話、メール、ホームページのフォーム。それぞれに使いやすさがあり、相手や状況によって適した連絡方法も異なります。入口が複数あること自体を、すべて問題と捉える必要はありません。
困るのは、入口ごとに記録や担当の決め方が違い、対応の途中経過がつながらないことです。
たとえば、電話では「担当に伝えます」と受け付けたものの、共有メールでは別の人が確認している。同じ用件なのか、追加の相談なのかも分からない。これでは、対応漏れだけでなく、二人が同じ確認をする重複対応も起こり得ます。
「全員にメールが届くようにする」「とりあえずチャットに転送する」だけでは、情報を見られる人は増えても、その件を進める人が決まるとは限りません。
窓口の整理は、連絡先の数を減らす作業とあわせて、受けた問い合わせが回答まで進む流れを整える仕事として考えたいところです。
最初に、連絡手段と問い合わせの内容を分けて見る
問い合わせを整理するとき、「電話が多い」「メールが増えた」という入口の話から始まりがちです。そこに、誰から、何を相談されているのか、という視点を加えます。
| 見る軸 | 一般的な例 | 整理する意味 |
|---|---|---|
| 誰からか | 入居者、オーナー、仲介会社など | 必要な確認や回答の範囲が異なる |
| 何の用件か | 設備不具合、手続き、募集状況の確認、修繕相談など | 対応する担当や判断が異なる |
| どれほど急ぐか | 早急な確認が必要なもの、通常の確認で進めるもの | 優先順位や案内先を考えやすくなる |
これは分類の考え方を示す例で、すべての会社に共通する完成版ではありません。分類を細かくしすぎると、受付時に選べなくなることもあります。
大切なのは、「電話だから同じ担当」ではなく、内容に合った対応先を考えることです。同じ電話でも、募集状況の確認と、個別の判断を伴う相談では、必要な仕事が違います。



「どこから来たかだけでなく、どんな用件かもそろえて見るんですね」



「はい。すぐに案内できること、情報を確認すること、人が判断すること。その違いが見えると、整理しやすくなります」
緊急性のある連絡まで通常の問い合わせと同じ順番で扱わないよう、既存の緊急窓口や営業時間外の案内とのつながりも確認します。
次に、「受付」と「引き継ぎ」の境目をそろえる
問い合わせの種類が見えてきたら、受け付けた人から次の担当へ、どこで責任が移るのかを考えます。
「メールを転送したから引き継ぎ済み」と考える人と、「自分が対応すると返事をしてから引き受けたことになる」と考える人が混在すると、その間に誰も進めていない問い合わせが残りかねません。
そこで整理したいのは、誰が受付を確認し、誰が次の対応を持つか、担当が不在なら誰が確認するか、という基本的な役割です。転送や口頭連絡をしたことと、次の担当が引き受けたことを、同じ意味にしないようにします。
また、設備の確認やオーナーの判断を待つ間も、問い合わせ自体が終わったわけではありません。「外部に確認中だから、自分の仕事は終わり」とならないよう、待っている間に状況を追う役割も必要です。



「送っただけで安心していたかも……。相手が引き受けたかまで分かると安心ですね」



「お互いに気をつけることに加えて、引き継げたかを確認できる形を考えましょう」
一元管理は、「全員が同じ受信箱を見る」から一歩先へ
ここまで整理してから、問い合わせをまとめて把握する方法を検討します。
目指したいのは、その件が、誰の担当で、いまどこまで進み、次に何を待っているかが分かる状態です。
電話やフォームといった入口を残しながら、社内の対応状況をまとめて把握する考え方もあります。一元管理は、必ずしも利用者の連絡手段を一つに限定することではありません。


同じ用件について、フォームを送った後に電話がかかってくる場合もあります。入口ごとの受信履歴だけを見ると別の問い合わせに見えますが、対応する仕事は一つかもしれません。履歴を残しつつ、同じ案件かどうかを確認できることも、重複対応を減らすための論点になります。
一方、まとめて管理する場合も、入居者や契約に関する情報を誰でも見られる状態にする必要はありません。業務上必要な人が、必要な範囲を確認できることを前提にします。
共有の管理表、既存システム、問い合わせ管理ツールなど、方法の選択はその後です。最初から大きな仕組みを導入するかどうかを決めるより、現在の受付と引き継ぎのどこで止まっているかを先に確かめます。
対応漏れを防ぐには、「未読」だけでなく「途中」を見る
未読メールがなくなっていても、回答が済んでいるとは限りません。
担当が決まらないままの問い合わせ。確認を依頼した後、返事を待ち続けている問い合わせ。回答の準備はできたのに、相談者への連絡が終わっていない問い合わせ。いずれも、受信箱の既読・未読だけでは把握しにくいものです。
そのため、対応漏れの防止では、新着の確認に加え、止まっている案件や確認待ちの案件に目を向けます。何をもって「回答済み」「対応完了」とするかも、業務に合わせて意味をそろえる必要があります。
たとえば、相談者へ状況を連絡したことと、修理そのものが終わったことは別です。この二つを区別しないと、問い合わせへの回答は済んでいても、必要な後続対応が見えなくなることがあります。
通知やアラートも、確認する人と、その後の動きが決まっていてこそ役立ちます。通知の数を増やす前に、誰が何を確認するための通知なのかを考えたいところです。
AIやツールは、整理した仕事を支えるために使う
問い合わせの整理が進むと、記録をまとめる、内容の分類を補助する、回答案をつくるといった場面で、AIやITの活用を検討しやすくなります。
ただし、分類や引き継ぎの基準が曖昧なままでは、人もAIも、次にどこへ渡すべきか判断しにくくなります。個別の契約条件や交渉を含む相談など、人の確認・判断が必要な範囲も分けて考えます。
また、募集状況のように変わる情報を扱うなら、参照する情報が更新されているかも重要です。回答を速くする仕組みと、正しい情報を維持する仕事を、あわせて考える必要があります。



「問い合わせを集める仕組みだけでなく、受けた後にきちんと進む仕組みをつくる。そのための道具として、AIやツールを選びましょう」
自社では、どこから窓口を整理するか
電話を受ける人、フォームを確認する人、現場で対応する人。管理戸数や組織、外部委託の範囲によって、無理なく続けられる役割分担は変わります。
「問い合わせを一元管理したい」と感じたら、まずは自社の問い合わせの種類と、受付から回答までの間で曖昧になっている境目を見直してみてください。そこが見えると、既存の仕組みで改善できることと、新しい仕組みが必要なことも考えやすくなります。
株式会社いざなうでは、不動産業務の理解をもとに、問い合わせ対応を含む業務整理、部門間の役割分担、DX・生成AI活用の構想づくりを支援しています。自社ではどの窓口・どの業務から着手するとよいか、一緒に整理しませんか。
記事の企画・監修
DXコンサルタント 蓼沼 康之(たでぬま やすゆき)
株式会社いざなう 代表取締役社長
不動産業務の理解を基盤に、生成AIの活用、業務改善、DX推進を支援。













