夢見巳社長といざな丑の「DX、何から始める?」|全7回・第1回
DX推進部をつくり、担当者も決めた。それでも「何から進めるか」が決まらない。そんなときに必要なのが、会社の目指す姿と現場の改善をつなぐ「DXグランドデザイン」です。
※株式会社まちみらい不動産と登場人物は架空です。本記事は、企業で起こりうる課題をもとにしたフィクションです。
DX推進部はできた。でも、どこへ向かう?
「DXをやると決めた。でも、どう進めればいいんだ?」
まちみらい不動産の夢見巳社長は、会議室に並んだ資料を見ながら考えていました。
総務部からDX推進責任者になった整え鼠は、社内アンケートや日々の相談をもとに、困りごとを整理しています。ただ、まだ声を聞けていない部署もあり、集まった要望もばらばらです。
AIを使いたい。顧客情報を探しやすくしたい。修繕の受付を楽にしたい。
どれも大切そうです。しかし、どれを進めれば、会社として何が変わるのか。そのつながりが見えていませんでした。
そこへ伴走支援に加わった、社外DXコンサルタントのいざな丑。最初の構想会議で、社長に問いかけます。
いざな丑「まず、会社としてどんな姿を目指したいですか?」
夢見巳社長は、少し考えて答えました。



「管理する物件が増えても、一件一件に丁寧に対応できる会社でありたい。社員にも、目の前の処理に追われるだけでなく、お客様への提案に時間を使ってほしい」
ここで初めて、会議の中心に「導入したいもの」と「実現したいこと」のつながりが見えてきました。
DXグランドデザインは、会社の未来と現場をつなぐ地図
「グランドデザイン」と聞くと、大きなシステム構成図や、何十ページもの計画書を思い浮かべるかもしれません。
本連載では、会社として目指す姿に向けて、業務・人・ルール・データ・施策の関係を整理した全体構想を、DXグランドデザインと呼びます。
いわば、経営と現場が同じ方向に進むための地図です。
そこに必要なのは、例えば次のような視点です。
| 視点 | 考えること |
|---|---|
| 目指す姿 | お客様や社員に、どのような価値を届けたいか |
| 変える仕事 | そのために、どの業務や部門間のつながりを見直すか |
| 支える仕組み | 誰が担い、どんなルールやデータが必要になるか |
| 施策と進める順序 | 何に取り組み、どのような関係で進めるか |
これは完成版の設計書ではありません。最初の段階で共有しておきたい、考え方の骨組みです。


改善案を並べるだけでは、つながりが見えにくい
個別の改善案は、構想の大切な材料です。小さな困りごとの中にも、全社に共通する課題が隠れていることがあります。
ただ、部署ごとの要望を一覧にした段階では、仕事がどこで途切れているのかまでは見えない場合があります。
例えば、入居者から修繕の問い合わせが入る場面を考えてみましょう。
受付担当者が過去の対応履歴を探し、管理担当者へ連絡する。管理担当者が業者に確認し、進捗を別の表に記録する。その後、オーナーへの説明が必要になる。
この流れで情報が引き継がれていなければ、受付だけを便利にしても、その後の確認や説明に手間が残るかもしれません。



「受付の時間だけを短くしても、次の担当者がまた調べ直していたら、会社全体ではあまり楽にならないかもしれませんね」



「そうですね。一つひとつの改善が、その先の仕事や、お客様への対応にどうつながるかも見ていきましょう」
同じ顧客や物件に関わる情報でも、役割によって必要な内容は異なります。何を共有し、誰が更新し、どこまで見られるようにするか。そうした論点も、全体構想の中で位置付けていく必要があります。
社長が示す方向と、現場が知っている仕事を合わせる
経営側は、会社の成長や顧客への価値を考えます。一方、現場には日々の例外対応や、失敗を防ぐための工夫が蓄積されています。
例えば「対応履歴を共有したい」という話でも、現場からは「担当外の情報をどこまで見せてよいのか」「忙しいときに誰が記録するのか」といった疑問が出てくるでしょう。
その声は、構想を現実に近づけるための材料になります。
夢見巳社長が目指す方向を示し、整え鼠が部門をまたぐ課題を整理する。いざな丑は、その間に入って論点をつなぎます。そして、実際の仕事を知る社員と確認しながら、実行できる形を探していきます。
経営の意図と現場の知恵が出会うことで、グランドデザインは自社の仕事に合ったものになっていきます。
最初から、すべてを決め切らなくてよい
夢見巳社長は、ふと心配になりました。



「では、全体の計画が完成するまで、改善は待った方がいいのかな?」



「小さく試しながら、構想を見直していくこともできます。まずは、何のための改善かを共有しましょう」
最初に描くのは、たたき台で十分です。現場の話を聞けば、想定していなかった制約が分かることもあります。小さな改善を試した結果、次に取り組むべきことが見えてくる場合もあります。
大切なのは、試したことを地図に戻し、「会社の目指す姿につながっているか」を確かめることです。
ただし、個人情報やセキュリティ、契約などに関わる確認は、小さな試行でも必要です。試す範囲を見極めながら、学んだことを構想に反映していきます。
IPA「DX推進指標」から、自社の現在地を考える
こうした話し合いの補助線になるのが、経済産業省・IPAの「DX推進指標」です。経営層や事業部門、DX・IT部門が、現状や課題について認識を共有し、次の行動を考えるために活用できます。[1]
今回は、2026年改訂後の「望ましい方向性」に基づく35設問のうち、次の2つが特に関係します。内容は読みやすく要約しています。[2]
| 関連設問 | 今回のテーマとのつながり |
|---|---|
| 設問4 | 経営者が主体的に関わり、経営ビジョンを実現する変革の道筋としてDX戦略を構築しているか |
| 設問8 | 既存事業の強み・弱みを捉え、顧客との関係やサービス、業務などを変える取り組みにつなげているか |
これは、本記事のテーマと設問を関連付けたものです。IPAが本連載の進め方を指定・推奨しているという意味ではありません。
自社に置き換えるなら、まずは次の問いを話し合ってみてください。
- DXで実現したい会社の姿を、経営者と担当者は同じように説明できるでしょうか。
- 集めた改善案が、自社の強みを伸ばすことや、弱みを補うことにどうつながるか、説明できるでしょうか。
次回は「経営目標とDX施策」をつなぐ
最初の構想会議で、夢見巳社長と整え鼠は、目指す姿を共有し始めました。
しかし、まだ問いは残っています。
「丁寧に対応できる会社になった」と、何を見て判断するのでしょうか。中期経営計画で掲げる成長や収益性と、現場の改善をどう結び付ければよいのでしょうか。
次回は、「そのDX、経営目標につながっていますか? 中期経営計画とKGI・KPI」です。目指す姿を、経営と現場が一緒に確認できる目標へつなぐ考え方を扱います。
全7回のシリーズ構成を見る
- DXグランドデザイン(この記事)
- 中期経営計画とKGI・KPI
- 兼務メンバーで進めるDX推進委員会
- 構想につながる業務ヒアリング
- 複数事業のDX共通化と個別対応
- 部門横断施策の優先順位
- 不動産管理DXのROIと定性効果
第3回以降は順次公開予定です。
自社のDX、どこから整理するか迷っている方へ
「DX推進部はつくったけれど、次の一手が決まらない」
「改善案はあるものの、全社の方向性につながっていない」
会社の事業構成や現場の状況によって、描くべき構想や進め方は変わります。
株式会社いざなうでは、経営課題と現場業務の整理から、DX構想・推進方針の策定を支援しています。今ある計画や要望をどうつなぐか、整理するところからご相談いただけます。
参考情報
[1] IPA「DX推進指標のご案内」
[2] IPA「参考:提出不可・社内共有用 DX推進指標設問一覧」(2026年10月26日確認。設問番号は同一覧の「望ましい方向性」に基づく番号)
物語の導入:まちみらい不動産とは
本記事の解説・図解は、上記資料を参考にした編集部の整理です。設問の全文や正式な評価基準は、IPAの公開資料をご確認ください。













