夢見巳社長といざな丑の「DX、何から始める?」|全7回・第3回
各部門からメンバーを集め、DX推進委員会を発足。ところが会議では「通常業務が忙しく、まだ着手できていません」が続く。担当者は真面目に取り組もうとしているのに、議事録だけが増えていく。
今回は、兼務のメンバーでDXを進めるために、役割・権限・使える時間をどう考えるかを扱います。
※株式会社まちみらい不動産と登場人物は架空です。体制や会議の場面は、考え方を説明するためのフィクションです。
委員会に集まったのに、仕事が動かない
前回、夢見巳社長たちは「対応品質を保ちながら、管理事業の収益性を高める」という経営の方針と、DXの取り組みをつなぐ相談をしました。
考える題材は、修繕対応の引き継ぎです。必要な情報が次の担当者に渡れば、探し直しや聞き直しを減らせるかもしれない。その変化を、KPIの候補として確かめようという話になりました。
夢見巳社長「方向性が見えてきたね。各部門からメンバーを出して、DX推進委員会で進めよう!」
整え鼠を事務局に、各部門の兼務メンバーが集まりました。現場の改善に前向きなこつ酉も参加しています。
ところが、最初の検討から先に進みません。どの業務を調べるかを話しても、部門で相談し直す必要がある。調べようとしても、日々の問い合わせ対応が優先される。次の会議でも、同じ話題が残っています。



「皆さん協力的なんです。でも、部門に戻ると動けないようで……。私から、もっと強くお願いした方がいいでしょうか」



「お願いを増やす前に、委員会で決められることと、部門で動くための条件を整理しましょう」
委員に任命されることと、仕事を変える権限や時間を持つことは、別々に確認する必要があります。
「各部門でお願いします」では、誰の判断も変わらない
部門の代表者が集まれば、情報は持ち寄れます。しかし、代表者が部門の業務ルールや人員配置まで決められるとは限りません。
例えば、修繕受付で記録する項目を増やす案が出たとします。後の担当者には便利でも、受付側の負担は増えるかもしれません。顧客や物件の情報を共有するなら、閲覧できる人の範囲や、既存システムとの関係も確かめる必要があります。
この調整を、委員の個人的なお願いだけで進めようとすると、話が止まりやすくなります。本人には変えられない条件が含まれているからです。
委員会を動かすには、委員会に任せる判断、部門長が引き受ける判断、経営に上げる判断の境界を共有することが出発点になります。
決裁権をすべて委員会に集める必要はありません。権限の範囲を超えたとき、誰に、何を判断してもらうかが分かる状態をつくります。
経営・推進役・部門・現場の役割をつなぐ
いざな丑は、委員の名簿の横に「どんな役割を担うか」を書き足しました。
以下は、役割を考えるための整理例です。会社の規模や体制によって、一人が複数の役割を担うこともあります。
| 担い手 | 主に引き受ける役割 |
|---|---|
| 経営 | 目指す成果と優先順位を示す。部門間の利害や資源配分など、委員会の権限を超えることを判断する |
| DX推進責任者・事務局 | 経営目標と施策のつながりを整理し、部門間の論点と進捗を見えるようにする。必要な判断を経営へつなぐ |
| 部門長・業務の責任者 | 対象業務をどう変えるかの判断を引き受け、担当者の時間や通常業務との優先順位を調整する |
| 各部門の委員・現場の実行担当 | 業務の実態や懸念を持ち寄り、合意した範囲で調査・試行・確認を進める |
| IT・システムの担当 | 実現方法、既存システムへの影響、データやセキュリティの条件を、検討の早い段階から確認する |
DX推進委員会は、これらの役割がつながる場です。事務局だけが、すべての業務改善を代行する仕組みにしてしまうと、整え鼠に依頼が集中してしまいます。
反対に、現場へ任せきりにすると、他部門との調整や経営判断が必要な課題が残ります。



「私が全部の宿題を引き取るのではなく、誰の判断が必要か、どこで止まっているかを整理する役割もあるんですね」



「そうです。各部門が自分たちの仕事の変化を担い、推進役が全体をつなぐ。そのための役割と権限を、実際の運営に合わせていきましょう」


兼務だからこそ、「いつやるか」を業務として決める
役割が分かっても、使える時間がなければ進みません。
こつ酉は改善案をまとめたいと思っています。しかし、問い合わせ対応や書類の確認を終えるころには、調査に使える時間が残っていません。
この状態で「空いた時間にお願いします」と言っても、空き時間が生まれる保証はありません。会議への出席時間だけを確保し、調査や試行の時間を見込んでいない場合もあります。
必要なのは、通常業務との優先順位を部門長と調整し、DXの活動にどの程度の時間を使うか、そのために何を減らすか・誰が補うかを一緒に考えることです。
すぐに人員を増やせない場合でも、対象業務を絞る、同時に進める施策を減らす、既存の報告を簡素にする、といった選択肢があります。



「委員を任命するだけでは足りなかったね。どの仕事を優先するか、部門長とも話そう」
兼務を続けるか、専任の役割が必要かも、施策の量や部門をまたぐ調整の負担によって変わります。「兼務でも必ずできる」と決めつけず、活動の範囲と体制を合わせて見直していきます。
会議を、止まっている理由と次の判断が分かる場にする
整え鼠は、委員会での問いかけも見直しました。
「進んでいますか」だけで終わると、報告する側は「まだです」と答えるしかないことがあります。そこで、進んでいないときに何を確かめるかを考えます。
- 次に確かめたいことは何か。何が分かれば、次の判断に進めるか。
- 止まっている理由は、時間不足か、情報不足か、部門間の意見の違いか。
- 委員会で調整できるか。部門長や経営に判断してもらう必要があるか。
- 次の担当と確認する時期は明確か。引き受けられる条件はそろっているか。
宿題を増やすことが目的ではありません。動けない条件を明らかにして、必要な判断と支援につなげます。
経営に相談するときも、「協力してください」だけでなく、何が競合しているのか、どんな選択肢があり、何を決めてほしいのかを整理すると、判断につなげやすくなります。
会議の回数や出席率は運営状況を知る手掛かりですが、それだけでDXの成果は分かりません。第2回で考えたKPIの候補に戻り、業務の変化を確かめる準備が進んでいるかも見ていきます。
引き継ぎの再確認が減るかを見たいのに、各部門が別々の数え方をしていたら、共通の理解が必要です。一方で、記録の手間が大きすぎるなら、測り方を見直す必要があります。
経営目標、業務の変化、担当者の活動を、委員会でつなぎ直す。 グランドデザインは、こうした運営を通じて、実行できる構想へと具体化していきます。
IPA「DX推進指標」では、どこを振り返れる?
IPAの「DX推進指標」は、経営者や社内の関係者が現状と課題への認識を共有し、次の行動につなげるための自己診断です。[1]
今回の話は、現行の設問一覧にある「望ましい方向性」のうち、次の4項目と関連付けて振り返れます。[2]
| 関連する設問 | 問われている観点の要約 | 自社で考えたいこと |
|---|---|---|
| 設問10 | 全社を巻き込んでDXを推進する体制 | 委員の参加に加えて、各部門で仕事が動く体制になっているか |
| 設問13 | 経営から現場までの役割・権限を定め、それに基づいて運営すること | 誰が何を決め、どこまで実行できるかが共有されているか |
| 設問17 | DX推進責任者の組織上の位置付けと、ミッション・役割の明確化 | 任命した責任者に、何を担ってもらうかが明確か |
| 設問18 | DX推進責任者の経営の意思決定への権限 | 推進責任者が、必要な経営判断に関与できているか |
※設問の要約と本記事との対応は編集上の整理です。公式設問の全文や成熟度の判定基準は、IPAの資料で確認してください。委員会を設置したことだけで、これらの設問を満たしたと判断するものではありません。
次は、現場の仕事をどう聞くか
まちみらい不動産では、まず、役割分担と使える時間について、部門長を交えて相談することにしました。委員会で扱うこと、経営に上げることも、整理していきます。



「次は、修繕の引き継ぎが実際にどう動いているかを、関係する担当者に聞いてみたいです」



「いいですね。『欲しいツールは何ですか』だけでなく、仕事の流れや、困る場面を一緒に確かめていきましょう」
体制を決めただけで、改善が完成したわけではありません。次に必要なのは、構想の前提になっている業務の実態を知ることです。
第4回は、「困っていることは?」だけでは見えない――DX構想につながる業務ヒアリング。ツールの要望を集める前に、どんな場面をどう聞けばよいかを扱います。
このシリーズの全7回
- 不動産管理会社のDXグランドデザイン
- 中期経営計画とDX戦略の接続
- 兼務メンバーによるDX推進委員会の運営(今回)
- DX構想策定の業務ヒアリング
- 複数事業のDX共通化と個別対応の境界
- 部門横断DX施策の優先順位付け
- 不動産管理DXのROIと定性効果
第7回は順次公開予定です。
DX推進委員会が動かず、悩んでいる方へ
「委員会はあるが、事務局だけが忙しい」「各部門にお願いしても進まない」「経営に何を判断してもらうべきか分からない」。そうしたときは、メンバーの熱意に加えて、役割・権限・時間の条件を確かめることが役立ちます。
どの判断を誰に任せるか、どの活動に時間を振り向けるかは、経営目標や業務の実態によって異なります。
株式会社いざなうでは、経営と現場をつなぐDX構想や、推進体制の整理についてご相談を承っています。
参考情報
- IPA「DX推進指標のご案内」
- IPA「社内共有用 DX推進指標設問一覧」 ― 「望ましい方向性」の設問10・13・17・18。本文では趣旨を要約。
参照確認日:2026年10月28日。













