全部そろえるべき?――複数事業のDX、共通化と個別対応の境界【第5回】

共通化する?違いを残す? 複数事業のDX、共通化の境界を整え鼠といざな丑が考える。

夢見巳社長といざな丑の「DX、何から始める?」|全7回・第5回

「部門ごとに似た仕事をしているなら、同じ仕組みにまとめたい」。一方で、現場からは「こちらの事業には、この手順が必要です」という声が上がる。

複数の事業を持つ会社のDXでは、全社で揃えることと、事業ごとの違いを残すことの両方を考える必要があります。今回は、共通化の範囲を、業務・データ・ツールに分けて考える話です。

※株式会社まちみらい不動産と登場人物は架空です。業務や会話は、考え方を説明するためのフィクションです。本文の整理例は、特定企業の完成設計や業界共通の運用ルールではありません。

前回:DX構想につながる業務ヒアリング

複数事業のDX共通化を考える4コマ漫画。全てをそろえるという社長の提案に、でき未さんが業務の違いを伝え、いざな丑が共通部分と個別部分を分けて考える。
目次

似た仕事があるなら、全部そろえればよい?

前回、整え鼠たちは、現場の要望に加えて、最近の一件を順番に聞くことの大切さを学びました。引き継ぐ前後の仕事や、必要な情報も確かめていくことにしました。

そこで夢見巳社長は、ほかの部門にも同じような仕事があることに気付きます。

夢見巳社長

「どの事業でも、問い合わせを受けて、確認して、対応しているね。受付も仕組みも、全部そろえたら効率的ではないかな?」

今回の物語では、賃貸管理と分譲マンション管理の仕事を、考える例にしてみます。同じ「修繕への対応」でも、対象や契約などによって、確認する相手、必要な資料、判断の流れが異なる場合があります。

でき未さん

「事業によって、確認する相手も手順も違いますぞ。全部同じにされると、必要な確認まで抜けてしまいます」

社長は、重複や無駄を減らしたい。でき未さんは、現場で必要な条件を守りたい。まず、この二つを具体的に確かめる必要があります。

いざな丑

「何を良くするために揃えるのか。その目的と、違いを残す理由を分けて整理しましょう」

共通化の境界は、「同じ名前の仕事だから」だけでは決まりません。顧客に提供する価値と、仕事を進める条件から考えます。

共通化したい理由を、経営と現場の言葉にする

共通化には、どんな期待があるのでしょうか。

同じ物件の情報を部門ごとに探し直しているなら、必要な情報を照合しやすくしたい。似た仕組みの保守が重なっているなら、その負担を見直したい。経営が全体の状況を知りたいなら、比較できる情報を揃えたい。

これらは、似ているようで、解決したい問題が違います。

「同じツールを使う部門を増やす」ことを目標にしても、情報を探す負担が減ったか、顧客への対応が良くなったかは、それだけでは分かりません。

第2回で考えた「対応品質を保ちながら、管理事業の収益性を高める」という方針に戻り、共通化でどんな仕事の変化を期待するかを言葉にします。

そのうえで、揃えるための負担も見ます。各部門が使わない項目まで入力する、業務に合わず別の表計算で補う、といった状態になれば、表面上の統一に反して仕事が増える可能性があります。

共通化することで減らしたい重複と、新たに生まれる作業。その両方を見ながら、範囲を考えることが大切です。

同じ項目名でも、意味まで同じとは限らない

整え鼠は、各部門の対応状況を一覧にできないかと考えました。どの記録にも「完了」という欄があります。

でも、ある仕事では顧客への連絡が済んだ状態、別の仕事では現場作業が終わった状態を指しているとしたら、どうでしょうか。

整え鼠

「欄の名前だけを合わせて集計すると、違う状態を同じ『完了』として数えてしまうかもしれませんね」

いざな丑

「はい。誰が何のために使う情報かを確かめて、比較する部分の意味や条件を合わせる必要があります」

項目の名前、対象の単位、記録する時点、更新する人。これらが違うと、情報を集めても、そのままでは比較や引き継ぎに使えない場合があります。

IPAの「データの共通理解推進ガイド」でも、データ連携に向けて、用語の意味を関係者で共通理解するための考え方や、データの整備方法が紹介されています。[1]

ただし、全ての部門の状態を、同じ一つの言葉に押し込める必要はありません。共通の集計に必要な状態と、各業務で管理したい細かな状態を、分けて考える方法もあります。

共通に使う情報の意味を揃えることと、現場の仕事を全て同じにすることは、分けて検討できます。

業務・データ・ツールを分けて、境界を考える

「共通化するか、各部門に任せるか」を、事業全体で一括して決めようとすると、話が大きくなりすぎます。

業務の一部は共通でも、判断の条件は違うかもしれません。使うシステムが別でも、必要な情報を照合するためのルールは揃えられるかもしれません。

考える単位を分けると、次のように整理できます。

考える対象 共通にする候補 違いを確かめたいこと
業務 受付で最低限確認する内容や、次の担当へ渡す情報 対象、契約、顧客との関係による、必要な確認や判断の違い
データ 同じ対象を照合するための識別方法、共通項目の意味 事業ごとの対象の単位、固有の項目や状態、閲覧できる範囲
ツール 共通機能の利用や、別の仕組みとの情報の受け渡し 現場に必要な操作、既存システムの条件、変更や維持の負担

※共通化の候補を考えるための例です。全てをそのまま採用するものではなく、目的と業務の実態に合わせて確認します。

例えば、同じ対象を特定できるようにしても、その情報を全社員が見られるようにするとは限りません。情報をつなぐ範囲と、参照・更新できる人の範囲も、利用目的に合わせて考えます。

一つのツールを使えば、必ず共通理解ができるわけでもありません。部門ごとに違う意味で入力していれば、同じ画面の中に認識の違いが残ります。

反対に、違うツールを残す場合にも、情報が自然につながるとは限りません。何を、どの時点で、誰が更新するかなど、受け渡しの条件を確かめる必要があります。

共通化の目的を起点に、業務・データ・ツールごとに揃える部分と違いを分け、情報の受け渡し・権限・運用負担を確かめる図。

「うちは違う」の理由を、判断できる材料にする

部門ごとの違いには、残す必要のあるものもあれば、過去の経緯や慣習によって続いているものもあります。

「昔からこうしているから」だけでは、違いを残す理由は分かりません。一方、「揃えた方が楽だから」だけで、顧客への説明や、必要な判断を省いてよいとも言えません。

第4回のヒアリングに戻り、その手順がどんな場面で役立つのか、なくすと誰が困るのか、別の方法で目的を満たせるのかを確かめます。

でき未さん

「『うちは違う』で止めずに、なぜその確認が必要かを説明すればよいのですな」

違いを言葉にできると、「業務上、残すべき条件」なのか、「揃え方を相談できること」なのかを考えやすくなります。

また、共通部分を決めた後も、項目の意味や運用ルールを誰が管理するかが必要です。一つの部門が変更すると、他部門の集計や引き継ぎに影響するかもしれません。

第3回で整理した役割分担に戻り、部門で判断できること、委員会で調整すること、経営に判断してもらうことを確認します。共通化に伴う負担や、事業間の利害がぶつかったときも、担当者同士のお願いだけに任せないようにします。

共通化の範囲は、試して確かめながら見直す

グランドデザインで全体の方向性を持つことと、最初から全ての仕組みを置き換えることは、同じではありません。

対象を絞って、揃えた情報が次の担当者に使えるか、現場の入力や確認が増えすぎないかを確かめる。その結果から、広げる範囲や、違いを残す部分を見直すこともできます。

どの事業から始めるか、既存の仕組みをどう使うか、連携や移行に何が必要かは、業務とシステムの状況によって変わります。小さく試す場合も、後で他部門へ広げるときの条件を見据えておきます。

夢見巳社長

「全部同じにするかどうかより、何を良くするために、どこを揃えるかを決めるんだね」

期待する効果だけでなく、移行や教育、維持管理の負担、顧客対応への影響も含めて考える。共通化の範囲は、その判断を重ねながら具体化していきます。

IPA「DX推進指標」とのつながり

IPAの「DX推進指標」は、関係者が現状と課題への認識を共有し、次の行動につなげるための自己診断です。[2]

今回の話は、現行設問一覧の「望ましい方向性」にある、次の項目と関連付けて振り返れます。[3]

関連する設問 問われている観点の要約 今回の話とのつながり
設問5 自社のデータを見いだし、整理・管理して変化に対応する力 共通で使う情報と、事業固有の情報を知り、意味や管理の仕方を考える入口になる
設問6 経営陣がデータを重要な資産として捉え、目指す事業の実現に活用すること 共通化の目的を、経営や各事業で生み出したい価値から考える
設問25 既存のシステム・データと新しいデジタル技術を、円滑かつ短期間で連携させること 同じツールかどうかに加えて、情報をつなぐ条件と変更への対応を考える

※設問の要約と対応は編集上の整理です。共通化の方針を決めただけで、各設問の能力や活用・連携の実態を満たすものではありません。公式設問と成熟度の判定基準は、IPAの資料で確認してください。

次は、共通化の候補をどの順番で進めるか

まちみらい不動産では、ヒアリングで見えてきた候補を、業務・データ・ツールに分けて整理することにしました。全社で揃える目的と、事業の違いを残す理由も、確かめていきます。

整え鼠

「候補が増えてきました。共通化も各部門の改善も、全部一度には進められませんね」

共通化する価値がありそうでも、それが最優先とは限りません。顧客への影響や、必要な準備、実行できる体制も関係します。

第6回は、「やりたいDXが多すぎる――部門横断施策の優先順位はどう決める?」。経営目標と現場の実態を踏まえ、何から始めるかを考えます。

このシリーズの全7回
  1. 不動産管理会社のDXグランドデザイン
  2. 中期経営計画とDX戦略の接続
  3. 兼務メンバーによるDX推進委員会の運営
  4. DX構想策定の業務ヒアリング
  5. 複数事業のDX共通化と個別対応の境界(今回)
  6. 部門横断DX施策の優先順位付け
  7. 不動産管理DXのROIと定性効果

第7回は順次公開予定です。

全社共通化と、事業ごとの事情の間で悩んでいる方へ

「経営は統一したいが、現場は合わないと言う」「部門ごとの改善が進み、情報がつながらない」「共通化の範囲を誰が判断するのか曖昧」。そんなときは、共通にしたい目的と、残したい違いを、業務・データ・ツールに分けて整理することが役立ちます。

どの範囲を揃え、どんな条件で個別に対応するか。具体的な境界や進める順番は、事業と組織の状況によって異なります。

株式会社いざなうでは、複数事業をまたぐDX構想や、共通化する領域の整理、推進体制づくりについて、ご相談を承っています。

自社のDX構想・共通化について相談する

参考情報

  1. IPA「データの共通理解推進ガイド」 ― データの意味の共通理解と整備に関する考え方を参照。本文の不動産業務の例と境界の整理は編集部によるもの。
  2. IPA「DX推進指標のご案内」
  3. IPA「社内共有用 DX推進指標設問一覧」 ― 「望ましい方向性」の設問5・6・25。本文では趣旨を要約。

参照確認日:2026年11月1日。

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